お侍様 小劇場
〜番外

   “そういう日に寄せて?” (お侍 番外編 124)


世間には色々な“記念日”があるもので。
まま その大半が、それぞれの業界が作った語呂合わせとか、
代表される人や関係者の生まれた日だったりするのであり、

 “キャンペーン張ったりイベント催したり、
  とどのつまり、
  販売促進用の宣伝以外の何物でもないんやろけどな。”

その伝でいけば、
日本酒がらみの記念日だって、
探せば相当出てくるに違いないはずだよなぁと。
デスクの上、プレゼン用の資料を開いていたPCで、
何なら検索してみよっかとチラリ思ったけれど。
お仕事中にそれはなかろうよと、
そこは一応は思い留まった、
灘は神戸の酒造メーカー“錦秋宴”の、
うら若き社長にして、代表取締役、
こそりと島田一族の西の総代でもあられる、丹羽良親さんだったりし。
政界の当主や与党の看板がころころと変わりまくっているせいか、
日本の経済も景気も相変わらずの低迷状態。
そんな世間様の萎れっぷりの煽りだろうか、
彼が表向きの籍を置く酒造業界でも、
芳しくはない話ばかりがちらほらと。
高価な限定プレミアつきの酒やワインは
一頃ほどには さほど捌けなくなったとか。
それに引き換え、
一時低迷していたウィスキーが
ハイボールブームで盛り返しつつあるとか。
お手頃お値頃ワインや焼酎ブームに押され、
ビールの消費が頭打ちとか、家呑み派が増えたとか。
微妙な浮き沈みの話が飛び交っている中。
師走からこちらのそりゃあお寒い厳寒続きが、
こちら様には功を奏しており、

 “まあ、ウチの場合は独自の戦略の勝利やけど。”

即戦力的なキャンペーンに比べ、
こういう何とか記念日は浸透させるのに時間が掛かる場合が多く、
商戦にはあんまり向いてないかも。
ただ、中にはそういう傾向からではなく、
純粋に趣旨を世間に広めたいと設定されたものも当然あって。

 “愛妻の日ィ、か。”

結構以前から設定されている代物で、
確か ワイフ・サンキュの語呂合わせで
12月3日が“妻の日”なのより古いとか。
愛妻協会というのが設立したもので、
照れからかズボラか、日本の男たちは、
結婚してしまうと好きとかキレイだよとか言わなくなるが、
それではいかんとし。
そんな趣旨から立ちあげられた協会が
活動の一環として設定したとか。
年々 認知度が上がっており、
花言葉が“永遠の愛”である
チューリップの花束を贈ることとされているせいだろう、
花屋さんも協賛してのイベントも多数。
今年は夫婦愛の映画がタイミングよく公開されるとあって、
そちらからもアナウンスされての、例年以上に広まっているようで。

 “む〜ん。”

さすがに例年よりは寒かったながら、
関西の、しかも瀬戸内沿岸では、
何日もの雪に振り回されたほどには荒れてもなくて。
そんな厳寒も一段落したか、執務室には大窓から暖かい陽が差し入る。
柔らかな癖のある髪が甘い色合いに暖められており、
白皙の美丈夫の横顔は、まるで春の使者のようでもあって。
彼が手にしていた週刊誌では、
映画の中で若夫婦を演じた主演俳優さんたちが表紙を飾っていたが、

 『ウチの会長にくらべたら、なぁ?』
 『せやな、どんなイケメン持って来ても霞むわ。』

その周辺にいて、
毎日のように小粋な言動も目にする機会の多い、
大勢の女子社員にしてみれば。
芸能人にあんまり萌えなくなったとか、
多少のイケメンじゃあ心は動かんとか、
やっぱり男は顔より甲斐性よねぇとか、
審美眼が豊かになった恩恵あれこれへ胸を張っているほどだとか。
そんな美貌の総取締役様だが、

 “……。”

最近の女性は日本酒もいけるクチな人が多いので、
夫婦で家呑み、熱燗でさしつさされつというのも、
キャンペーン的には良かったかもしれない…とか何とか、
来年の営業展開にまつわる何かやかを想起していたのではなく。

 “確か…酒もむっちゃ強かったハズやよし。”

何も、ほろ酔いになって凭れてくれないかとか、
潤んだ眼差しで秋波を送ってほしいとか、
そんな俗なことを期待してはいない。
男勝りで腕も立ち、
きりりと鋭利な態度が、その冴えた風貌には最も相応しいこと、
誰よりも承知している自分だし。
そんなお人だということ、
苦笑しつつも頼もしいと称賛してもいたのだけれど。

 “今の身ィでも同んなじ、なんやろか。”

涼やかであるのみならず
男の色香もたっぷりとこっそり噂されるほどの
錦秋宴の看板、良親殿の視線は だが、
雑誌の表紙ではんなりと微笑う、純朴そうな女優さんを通り抜け、
別な女性の風貌を思案の中にて追っておいでで。
転生後の身は、結構な資産家の令嬢にして、
有能な女医さんでもある愛しの君だが。
麗しい風貌も毅然とした気性も
ちいとも変わってなかったくらいだから、
そこのところも変わりはない公算が高く。
いやいや自分も酒には強いが、

 “…あかん。
  何や男同士で気勢上げとぉ飲み会しか思いつかん。”

お酒を傾け合って過ごす場を持てたとしても
どれほど瓶を空けても酔わず乱れず、
どちらも譲らぬ、頼もしい限りの漢ぶり…って。
いやいやいや、いくら何でも、
そこまで勇ましい飲み方ばかりするお人でもなかろう。
一応は、令嬢然としたマナーなり振る舞いなりも
身につけているのだろうけれど。

 “そういうの持ち出される、他人行儀なんもなぁ。”

それはそれで堅苦しいしと、
自分で展開させた想像にいちいちダメ出ししておいでの若社長。
やるせない吐息をついたりした日には、

 「うあぁ、どないしやはったんやろな、社長。」
 「実は あお○ちゃんのファンやったとか?」
 「いやぁ、それはないやろて。」
 「あれちゃう? キタか新地か、新しいカノ女のこと思てはるとか。」
 「ウチは 新開地のクラブのちぃママさんやて聞いたけど?」
 「え〜? おミズの人に入れあげてんのは“カノ女”とはちゃうやろ。」
 「いやいや、そういう差別はあかんて。」

しょむないキャンギャルとか女子大生に振り回されてるよりは許せるし、
うあ、▲▲ちゃん言うなぁ、何様?いうてなvv、自分で言うかホンマ…と、
キャッキャとはしゃぐ罪なき秘書らの声も届かぬまま。
遠く東の地におわし、孤高の月を思わすお人の、
麗しの顔容を想っては…悩ましげに眉を寄せてておいでの、
困ったヲノコ様でございます。





     〜Fine〜  13.01.29.


  *ちなみに、2月2日は夫婦の日、なんですてね。
   11月22日とは別口だそうで、お互いを称える日なのかな?

   「だ〜〜っ、もうっ、うっとぉしいわっ!」
   「何や征樹、いきなり どつかんでも。
    まずは話し合おやないか。」
   「うるさいわっ、しゃんとせぇ。」
   「しゃんとしとぉがな。」
   「如月が手に負えんて言うてきたんや。
    花見のシーズンへの色々がある時期やっちゅうに、
    腑抜けとる場合か、こら。」
   「…お前は ええわな、こういう悩みには縁遠うて。」
   「せやから何の話や。」
   「年の差あるんも我慢出来るてか?
    勘兵衛様かてそうや、
    艱難辛苦も何するものぞ…やしなぁ。
    俺はあかんわ。ちーとは見習わんとなあ………。」
   「………おーい?」

   どこの征樹さんも大変そうです、はい。(笑)

  *こういう独自の“記念日”って、
   各国でそれぞれに面白いのがあるそうですが、
   日本のホワイトデーも大概ですが、
   お隣りの韓国では、
   聖バレンタインデーやホワイトデー、オレンジデーと来て
   それへ続く
   “ブラックデー”とかいうのもあるって聞いたことがあります。
   また、イスラムやヒンドゥーなどは
   今でも生活する上で独自の暦を使っているので、
   国内での新年の祝日が別にあったりするそうですし。
   日本もサ、ハッピーマンデー法を推進してるんなら、
   いっそそういう記念日も幾つか拾えばいいのにね。

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